第30回『隣にグラビアアイドル』
(2006_02_16)

 渋谷のカフェでたまたま隣に座った少女は、グラビアアイドルだった。
首から携帯を提げたマネージャーらしき男性を前に座らせ、真剣に水着カットを選んでいる。

 さらさら黒髪に黒目がちな瞳。童顔中乳(“巨”ではなかったっす)。ミスマガジンや制コレに出そうな、“こりん星系かわい子ちゃん”。しかし…。
「てめえ事務所に言って辞めさすぞゴルぁ」
「うっせえ黙れ、喋んなムカつく。使えねえなクソ」
「あの女、下手なメイクしやがって」
どうやら編集部指定のポーズがあって、しかし本人はその写真の出来が気に入らず、載せたくないらしい。
で、正面に座っているマネージャーらしき人に「どうにかしろよ」と言い、「言ったけど駄目なんだってば」と返され、荒れているのだ。

 彼女の幼い頭では、これがプロ意識らしい。写真一枚、ちょっとした表情にも妥協を許さない自己プロデュースってやつ。
そういう“こだわり”って、要注意。アーティスト魂と勘違いって、同じなんだから。持ち主に才能があるかないかの、違い。
出版社は、彼女がかわいいから喜ばせてあげようと写真を撮っているわけじゃない。彼女は、あくまでも部数を上げるために、雇われている。
もしかすると、自分では気付かなかった理由が、あるのかもよ。こっちの写真の方が、目はちょっと小さいけど、おっぱいのつぶれ具合がいい、とかさ。それを聞いてみたら、今後のプラスになるかも。
一緒に仕事してる人を大事にしないと。ほんとのプロならね。
バカにしているそのマネージャーは、自分の商品価値の反映なんだよ…。

 写真をめくる彼女の肘が、私に当たった。「すみません」と頭を下げる彼女。知らない人にはちゃんと挨拶するgood-lookingな女の子。
彼女が見つめる数々の写真の中、ピンクのビキニを着た“妹キャラ”が、四つんばいになったり胸を寄せたり、上目遣いでレンズをのぞき込んでいたり、スネたふりしたり、「キャハっ」とばかりに笑っていたり。
思わず聞いてみたくなる。ね、あなたが目指す女の子って、一体どんなの?
その写真みたいなキャラがかわいいって、本当に思ってる?だったら、悪態ついてる自分が、嫌にならない?思い通りに動かない周りの大人が悪いの?
それとも、こんな写真に騙されるなんて、男はバカだなって、思ってる?
だったら、何のために、かわいくなりたい?大勢のバカな人達に、もっともっと「かわいい」って思われたいのは、どうして?そんなので満足できるの?得られるのはせいぜい、優越感では?

 稼いだお金で思うように着飾って、本当に好きな男の子に「かわいいね」と愛される。それが、グラビア少女が見ているゴールなんだろう。
となると、せっせと写真を買い求める男子は、集団で“踏み台”を形成していることになるが、彼らとてひとときの仮想現実のために画像を利用しているだけのこと。彼女の真の姿など、興味はあっても、実はどうでもいいことなのかもしれない。
彼女の仕事のやり方は、おそらくあのまま、ずっと変わらない。きっと、それほど売れもしない。
「やだな、そういうの」と私が思っても思わなくても、市場は見事に成立している。