第25回『ピンクと金の恥ずかしい話』
(2004_09_16)
 どうにもくっだらないことで、自分でもあまりにもバカじゃないかと思いながら、どうしても悩んでしまうこと、ないでしょうか。
 私は、去年から鍼治療に通っている。仕事柄、肩凝りや首の張り、腕の痛みが出ることがあって、整形外科医に「いい鍼灸師がいる」と紹介されたから。確かに効果があるのだけど、今回の話はそういうことではなくて。
 話は飛んで、私のクローゼットには、「病院パンツ」や「病院ブラ」なるものが常備されている。ふだん自分の趣味に走って、ブリブリっ子だったり、ちょいワイルドだったりするので、そのまま病院に行って初対面の医者に見せるのは、ちょっとはばかられるのだ。
 メイド服ちっくなのとか、なかなかカワイイのだけど、病んだ体には、不似合い。だから病院へは、まったく飾りっ気なしで行く。女子の皆さん、そんなことってないですか?

 鍼灸院では施術用のローブに着替えるのだが、下は自前のを履いたまま。下っ腹や腰にも鍼を打つので、当然、見えてしまう。当初、毎週末通うことになるとは思ってもいなかった私に、何が起きたかというと、いつもいつも同じ“ピンクの無地”で診てもらうことになってしまって、それを替えるタイミングを失ってしまったのであった。どうでもいいですか?いや、鍼灸院って、年輩の方ばかりで、私くらいの人はとっても珍しいので、つい自意識過剰になりがちなのです…と言い訳させてください。

 2ヶ月も同じパンツで通っておきながら、突然替えたりしたら、「あ、何か目覚めちまったか?」と思われたりしないかしら。急に柄やレースのついたのになったら、「誘惑する気か?」とか思われないかしら。
 そうこうするうちに、3ヶ月、4ヶ月が経ち、治療院は年末休業に入った。これで2週間くらい間が空くのは、いいタイミングかもしれない。これを機に替えるのだ!そう思ったけど、また引っかかってしまった。
 「この子、パンツは正月にしか買わないのか」と思われないかしら。ほら、昔の人は、年末になると、新しいふんどしを買って正月に備え、気持ちを切り替えたとか言うではないですか。

 そうこうするうちに、“ピンク無地”は半年を経過した。いかん。そろそろ、病院用も買い替えたい。先生ともだいぶ仲良くなったことだし、正直に話してしまおうではないか。治療院に他のお客さんがいなかったある日、私は「今だ!」と思った。
 「先生、私のこと…」
 切り出したはいいものの、口に出そうとすると、そのあまりのバカらしさに口ごもってしまった私。流れる沈黙。「うん?」と先生。ちょ、ちょっと待ったあ。これって…?私は焦った。
 い、い、いかーーーーん!これじゃまるで、恋の告白みたいじゃないのー!
 早く、早く、言ってしまうのよ。ほれっっ。
 「い、いっつも同じパンツ履いてるなって、お、思ってないですか?」
 「え…?」 先生、硬直。今自分が耳にした言葉がすぐには理解できない様子。そりゃそうでしょうよ。そしてようやく、「そんなとこまで…見てないよ」。
 「そ、そ、そうですよね。あは」と私。
 なんかもう引っ込みがつかなくなってしまった私は、「あの、私、“病院パンツ”ってのがあって…」などと一気にまくしたてたのだが、それを聞く先生の様子を見るにつけ、彼のようなおじさん且つ治療一筋の真面目な先生にとっては一切理解不能な話であるらしいことが分かり、ますますしどろもどろになっていく私であった。
 「要するに、医者がムラムラしないように?」と先生。「いや、ムラムラっていうかその、アンタ何しに来てんのって思われないようにっていうか、浮いちゃいそうだし、やっぱ神聖な医療の現場では…」とかナントカ、まったくもって自分でも何言ってんだかって展開になってしまったのだった。
 あ〜ん、バカバカバカバカ。穴掘ってでも入りたい!しかし、ともあれ、これで“ピンク無地”にこだわらなくてもよくなったのだから、良しとしよう。あとは、毎回の施術におけるさりげない会話の繰り返しにより、先生に私の“変さ加減”を忘れていって頂くのだ。

 などと思っていたのだが…。先日、私はまたやらかしてしまった。
 友達と一緒に行った銭湯に「冷凍サウナ」(読んで字のごとく冷凍庫のように冷え冷え)なるものがあり、そこの看板に「古来より伝わる金冷法でも広く知られているように、体を冷やすという健康法は…」などと書かれていたのだが、私は「健康法だったら先生に聞いてみよう!」と思ったのである。ええ、わざわざアメリカくんだりまで勉強に行ったって、やっぱり知らないことは知らないのです。

 「先生、金冷法って何ですか?」
 「んー、何なに?きんれー…、えっ、金冷法?!」
 その声は、ベッド三つをカーテンで仕切っただけの小さな治療院の隅々まで響き、集っていたジジババ様達の耳にも確実に届いたはずだ。え、何かまずかったですか?すぐにそう気付いたが、先生の答えを聞いて、“げ〜〜〜っ”。そ、そんなこと、銭湯の女風呂に書くなよぉ…。
 一刻も早く、なぜそんなことを聞いたのか言い訳させてもらいたいと私は思ったのだが、仕事熱心で真面目な先生は、僕が子どもの頃は銭湯へ行くと手桶にだらりと入れたオヤジがいたとか、冷たいタオルでびしびし叩いたりしてたとか、なんであんなことするのかと思ってたけど今は分からなくもないとか、ご丁寧な説明が延々と続いた。ううっ。
 これってどうやら一般常識らしいですね。分かんない人は自分で調べてね。

 ああ、もう駄目。立ち直れない。これで先生にとって私は完全に、「そんなことばっかり気にしてる子」になってしまったわ。
 なんでこの人が相手だといつもこうなっちゃうのかな…ということ、きっと誰にもあると思う。自分のある一部分が、なぜかその人に対してだけ、大きくクローズアップされてしまうということが。
 でも、よりによってコレはないですよね…。幸いなことに、先生の中で私は「ヘンな子」ではなく「おもしろい子」として認識されたようで、行くと「おお、来た来た」って感じであたたかく迎えてくれる。これ以上、恥を重ねないようにしたいけど、二度あることは三度あるっていうし…。行くたびに、ちょっとドキドキしている私であります。