第23回『セールスお断り?ウチの場合』
(2004_04_01)
 平日の昼間に家にいると、さまざまなセールスの人がやって来る。これもまあ一種の出会いと言うのかな。

 先日、宅配牛乳の販売員がやって来た。XX乳業は販売員を顔で選んでる!と確信させるほどに、今時の美形でありながらとても素直そうな、色白で明るい髪色の、いかにも主婦受けしそうな男の子。そこらでちょっと見ないようなかわいさだった。
 しかし、ドアを開いた私に、開口一番「あ、奥さん!」と声をかけたのはいかん。ソッコーで「違います」と答える私。そこで“まずい”などという顔をせず、「ごめんなさい」とあくまでも素直に謝るのは、生まれつききれいな顔の子特有の余裕という感じ。
 断ると、「でも、僕、あなたのために一生懸命がんばりますっ」と彼。そのキラキラお目々に吸い寄せられながらも、私は思わず尋ねていた。
 「“がんばる”って、毎朝あなたが配るんじゃないんでしょ?」
 彼はパパーッと赤面し、「えっ、えっと、配るのは確かに配達員なんですけど、何か失礼があったら、僕、飛んで来ますし、その…」。
 あー、やだやだーっ。悪気なんてない、素直な疑問だったのに。私はこういうとこがダメなのかな。若くてかわいい子にああやって困った顔をされると、いかにも私がブスで意地悪なおばさんって気がする。こっちこそ被害者だよぅ。私はただ家でくつろいでただけなのに、こんな自己嫌悪。
 彼には、丁寧にお引き取り願った。あくまでも「今回取っていただけなくても、僕、がんばりますから」と言い張って、彼は去った。よっぽどがんばりたいお年頃なのね。

 この前は、30代とおぼしきマンションの販売員が来た。ドアチェーン越しに「何ですか?」と聞くと、「この近くに新築のマンションが売り出されましたので、そのご案内に」と背広姿の彼が言う。「結構です」と断ると、「奥様と旦那様の快適な暮らしはもちろん、小さなお子さんがいらっしゃる御家庭にもぴったりなんです」と食い下がってきた。んもー。
 「私、独り身ですから」と私。すると男は、何と言ったか。
 「え?でもここ、ワンルームじゃないですよね」
 はあ〜っ?カッチーン!!ここは2DKだっ。それがどーしたぃ!独身女はワンルームに住まなきゃならんのかあ!!喧嘩売ってんのかい。え?え?
 おかげで、「私、自分で稼いだお金で一人で住んでますっ」と、全然言わなくていいことまで言ってしまった。男は、「あ。そですか。とにかくいい物件なんで、よろしかったら是非。下のポストに資料入れときますから」と言って去った。なんなんじゃい。私と喋ってるのにわざわざ階下のポストに入れるとは。ズレた奴。

 その話を同じく独身の女友達にしたら、「失っ礼〜!」と憤慨し、「“私社長です”って言ってやればよかったのに」と言う。でも、そのときの私と来たら、ひっつめ頭でヨレヨレのスタイル。それこそ思いっきり「負け犬の遠吠え」(売れてますね)状態だったろう。
 単身用マンションに住む彼女のところには、宗教の勧誘が絶えないそうだ。アナタ寂しいでしょと前提にされるのも、えらい迷惑なハナシ。既婚者には既婚者の孤独があり、そっちこそ深刻ではないかと思うのだけど…。

 ところで飛び込みの営業といえば、私には、別の意味で忘れられない思い出がある。
あれは、今と同じ町内ながら、私がまだ木造二階建てのアパート暮らしだった頃。XX新聞の勧誘のおじさんが、定期的に訪問してきていた。契約するたびに「ありがとうね」と言って、洗剤やら何やら山のように品物をくれた。
 私が、土曜日にポイとふられて、日曜日に一人で部屋にこもっていたときのことだ。新聞屋のおじさんが、やってきた。世間話の後、いつも通りに半年間の更新をしたはずで、おじさんは「じゃあまた」と帰っていった。
 と思ったら、30分ほどして、またドアをノックする音。開けてみると、おじさんが立っていた。「おねーさん、さっき何か元気なさそうだったから」と彼が差し出したのは、スーパーの袋に入った缶ジュース2本と、みかんの缶詰ひとつ。
 「事務所に、こんなもんしかなくてさ。冷えてなくてごめんね」と言って私に袋を持たせると、何も聞かず、「元気出しなよ。おじさん、応援してるから」と言ってさっさと階段を下り、キーキーきしむ自転車で帰っていった。
 缶詰は、どこでぶつけたのか凹んでいた。床に座り壁にもたれ、ぬるい“午後の紅茶”を飲んでいたら、泣けてきた。前日からずっと、一滴も涙なんか流していなかったのに。失恋のせいなんかじゃなくて、おじさんが優しかったからだ。
 おじさんは、新聞を売りに来ているだけのようでいて、そうじゃなかった。ちゃあんと私を見ていた。元気づけるためだけに、わざわざ戻ってきた。

 100人中99.5人は「まったくもう」と言いたくなるような人達であるとしても、私には、一つの良い思い出があるので、ああいう営業の人達をハナから無視することができない。いじめたり怒ったりする結果になることもあるけど。
 たった一瞬の出会いでも、大勢の中の一人でも、意味のある出会いになることはある。心を入れて相手を見ていれば、伝わること、伝えられることはたくさんあるのだ。
 あのおじさんは今も、ガニ股でキーキー自転車を乗り回し、ご近所での営業に励んでいる。遠くから、「あーっ、おねーさーん!」と言って、ぶんぶん手を振ってくれたりする。