第4回『満員電車で壊れかけた』(2001_04_23)
 今日は満員電車の中で発狂するかと思った。ちょっとやばかった。
 月曜日は、だらけきった日曜日の後で身体がついていかないところへもってきて、月曜日だけは顔を出そうという会社員や学生がいて、いつもより乗客が多い。私は背が低い方ではないけれど、満員電車で背の高い男性に前に立たれると本当に苦しい。顔面に肩胛骨が当たって、私はそっくり返る形になる。また、おじさん達の中には、前に立つ女性に怪しまれたくないのか、手すりを掴んだ手を突っ張って不自然なほどに背中とお尻を突き出す人がいるけれど、自分の後ろに立っている女性のことは完全に無視していて困る。

 今日の混雑具合は殺人的だった。その上に、後ろの背高男が精一杯突っ張ってきたせいで、こっちは顔がつぶれるどころか、前の背高男の背中にぐりぐり胸を押しつける結果になった。おかげで、前の男はやたらと後ろを振り返る。私は前後左右をがっちり男性達の肩で固められて、不自然に首をひねったままの体勢で、やばいと思ったときにはもう手足が冷たく呼吸が乱れていた。そこにいるのが怖くて、吸っても吸っても息が苦しい。脂汗がだらだら流れて、耳が遠くなりそうで。じっとしていたら泣いて暴れそうな気がした。
 「ああ、いかん。このままだと叫ぶ」「今なんとかするから」心は一人二役。死にものぐるいで背伸び。電車がガタッと揺れたすきに、なんとか頭を動かした。次の駅までの10分が死ぬほど長かった。降りたときには脂汗びっしょりで、乗り換えた電車で椅子に座り頭を抱えた。

 こんなことは初めてだ。私は電車通勤歴数年で、今さら満員電車に耐えられないなんてことはないはずなのに。今まで普通に乗っていられたし、痴漢に横からげんこつ喰らわせたりする余裕すらあったのだ。
 我ながらわけが分からないけれど、今日の私はちょっとだけいつもより脆かっただけだと思うことにする。頭ひとつ動かせない息苦しさ、痴漢呼ばわりされたくないばっかりに後ろの私を押しつぶす男、知らん男に胸を押しつけざるをえない悲しい状況、ぎゅうぎゅう詰めの乗客達の息づかいと無表情etc.が、一人っきりの静かな日曜日の後で、少し胸にこたえたんだろう。

 東京っていうのは、ちょっと特殊なところ。ここの人達は、それをどこか誇らしげにして暮らしている。一方で、ストレスから鬱病になる人も少なくない。今日の私は、その狭間にストンと落ちた。狂ったような満員電車、道ばたに転がる人間は風景の一部、ひっきりなしの携帯電話にメール、他人への無関心と知人への執着。都会のルールについていけないことが弱さだとも、病んでしまう神経こそまともだとも、私には言えない。どちら側にもつけずに、私はただはみ出している。
 だって、私自身が、この街についていけてるのかいないのかも分からない中途半端さだから。今日は胸がおろおろしているけど、明日はどうってことなくかわせるかもしれないから。腹をくくって染まってやれとも、ナイーブなまま生きていこうとも、どちらとも決心がつかないままだから。